2006-09-11(Mon)
麗子

板張りの床がぎしぎしと音を立てて泣いているようにきしむ中で
オルガンを弾く手を休めて隣の部屋で床に伏している母の様子を
探るように伺っている。
学校から帰ってオルガンに向かうとき日曜日が無い世界に生きた
たいと何時も思う。
なぜ自分がこの家に生まれたのかわたしが望んだわけでもないのに、
母が倒れてからいつの間にか自分に廻ってきた奏楽の奉仕を時々恨めしく感じる時がある。
ひと通りの稽古を済ませると母の部屋の扉を開けてみる。
床の中から優しい眼差しで母が微かに微笑んだような気がして膝から
滑るように座り込むと母の額に手を当ててみる。
熱がないのでホットする。
薄く眼をあけた母が。
「ごくろうさま・・・とても上手に成ったのね」と冷たい手を膝に置いて言った。
「そうかしら・日曜日までには弾けるようにしておきます」
後二日もあるしもう充分に弾きこんでいるから自信はあるのだが。
「あなたも大変ね・・・オルガンを聞きながら少し眠ったようね」
昼間は園児のざわめきで眠られない母を気遣って出来るだけ静かに
間違わないように注意して稽古をしていてもオルガンのペタルを
踏むたびにシーンとっした部屋に響くぎしぎしと鳴る床が気になって
仕方がないのだった。
「それで熱が出なかったのかしら・わたしご飯の支度してきます」
台所に立つと手際よく夕食の支度はあっと言う間に出来上がりヤット
出来た一人の時間を楽しもうとしているときに。


