初恋

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学校から帰ると祖母の言うように何時もキチンと着物に着替えて
父の書斎に挨拶に行くのだった。

ドアを開けて這入っていくと父は待っていたかのように優しい
手でおかっぱ頭を撫でながら「おかえり・・・」

膝に抱き上げることはしなかった。

一抹の寂しさを感じながらもお仕事中は仕方がないのだわと諦めて
書斎を出ると祖母がお八つを用意して待っていた。

双子の姉が相次いで幼くしてこの世を去り暫くして授かった自分が
大事に育てられていることは子供心には窮屈で嫌だった。

書斎から出て来た父は人が変わったようにお膳に座ると同時に私を
あぐらの膝に抱き上げて頬刷りをしてきた。
こうなると暫くは放して貰えないことを知っていた。

裏の野原で子供達の声が元気よく聞こえてくる。
早く行って一緒に遊びたいのに。
この父の膝からどうして逃げ出すかが難問だった。

あの当時では珍しい電話が鳴って父が立ち上がって抱き上げられ
ないように「おしっこ」と言って逃げ出した。

何時も使うこの手を父も心得ていて笑って開放してくれるのだった。

玄関に靴と入れ替わりに揃えられている駒下駄を履くと私はヤット
自由を手にした子供になれた。

幼い頃は身体が弱く7才までは育たないだろうと言われた両親は
武蔵野の地に別荘を買って都心から越してきたのだ。

二階の私の部屋からはお天気が良い日には綺麗な姿の富士山を
観ることが出来た。
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21:20 | 創作 | comments (0) | trackbacks (0) | page top↑