2006-10-21(Sat)
遠い日

美しい夕焼けを見ると思い出されるのが故郷の秋の風景で葺き揚がった
ばかりの屋根が夕日に映えて黄金色に美しく輝くのを忘れることが出来ない。
関東平野に北風が吹く前の秋の日が選ばれ朝早くから親戚縁者が手伝いに来て屋根やさんが来ると屋根の葺き替えが始まるのだった。
二毛作地帯だから新しい屋根はその年に収穫した麦わらが使われる。
吹き替えが予定されると吹き替えようの藁は丁寧に干されて梅雨の季節には家の軒先に大事に保管されこうして晴れて吹き替えの日を迎えるのだが親戚が助け合って足らない所はお互いに協力していたようだ。
その日は朝からお祭り騒ぎのような賑やかさで近所の女の人が炊き出しの手伝いに来てご馳走が作られ子供達は遠巻きに眺めているだけで用事がない日で嬉しい一日だった記憶がある。
家の廻りに高い梯子が何基も据えられて特別足場らっしきものがあつた記憶がない。
古い藁をむしり取られた屋根は太い竹が組み込まれていて下から上えと
新しく葺き替えられていく様は手品のようで見ていて面白かった。
打ちでの小槌の様な杵で藁の先を綺麗にそろえて最後に切りそろえると
其れは見事な軒先が分厚い姿を現してこの冬は暖かいぞと父が笑う顔が
素敵だった。
昔の農家は押し入れの数が少なく朝早くから主だった家具類は近くの
田圃に運び出されて筵で綺麗に蔽われていた。
取り外した古い藁は近くの田圃で焼かれて片付けられる此は年寄りの
お爺さんの役目でみんなで協力して夕方までには屋根は綺麗に葺き上がりその夜はお祝いのお膳を囲んで賑やかだった。
葺き揚がった新しい屋根の下で寝ることは新しい藁の匂いが鼻を突いて
気持良く電気を付けるといつもより明るく感じられた。
今の家の様に全ての部屋に天井は無かったような気がする。
次の日朝日が当たると金色に輝く屋根は言葉に表せない美しい物として
瞼の裏に焼き付いている。
一度葺き替えをすると10年は持つようで私が見たのは姉がお嫁に行くことが決まった年の事だった。
今は眺めたくも一つもない藁葺き屋根の家が懐かしい。


